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■全体的な研究課題

  1. 知覚,思考,言語などの各認知活動に認められるヒューマン・エラーの特徴を明らかにし,環境に対する適応という視点に立って,それが調整され克服されていく過程を明らかにします.
  2. 人間の発達という視点に立って,認知が変化する契機を明らかにします。認知の発達は,外的環境を受容する様式の変化によって生じるのか,それとも内的認知過程の成熟によるのか,あるいは両方が関与するとすれは,両者はどのように相互作用しているのかということが問われることになります.
  3. 人間といわゆる知能ロボットの機能的類似性に着目して,ヒトの認知過程の研究が,単純なセンサから高度なロボットに到るまでの機器の製作に対してもちうる有益性を明らかにします.

■基礎的な研究課題

つぎの5部門を設け,各部門はそれぞれの認知の基礎研究を行います.
  1. 初期認知:外界についての情報は,物理的エネルギーのパタンという形で感覚器官に到達し,そののち心的な表現形式に変換されます.その心的表現形式のうち初期の認知過程において生成されるとされる,色と明るさ,錯視,空間知覚,感覚間相互作用などを研究対象にし,その過程の記述,機能,機構を明らかにしています.代表,北岡明佳.
  2. 後期認知:われわれは,初期認知の過程で形成された心的表現に,さらに何段階もの処理を加えて,高次の複雑な心的表現形式をつくりだします.ここでは,推理,思考,理解など,おもに言語や概念の内的操作によって活性化する認知過程を研究の対象にし,その過程の記述,機能,機構を明らかにしています.代表, 服部雅史.
  3. 言語:後期認知の過程では言語(概念)が重要なはたらきをします.言語は,推理,思考,理解の機能が持続的かつ精密に展開されるためには,不可欠の道具であるといってもよいでしょう.ここでは,言語を認知活動の一環として捉えた分析あるいは言語(コーパス)の認知科学的分析を行っています.代表,田中省作・岡本雅史
  4. 認知発達:人間の認知能力は,人が生きているかぎり変化し続けるものですが,とくに著しい変化は,乳幼児から青年に達するまでの時期と高齢の時期にみられます.認知能力が発達するとは,何がどのように変化していると考えればよいのでしょうか.ここでは,一方では幼児から青年期の認知の形成とその成長過程を明らかにし,他方では高齢者の認知能力の恒常性と減衰の過程を解明します.代表,山本博樹.
  5. 機械とヒト:実験心理学や認知科学の知見を機器の開発などに適用したときに生じる,ヒトと機械の親和性と差異性に関する研究を行っています。また人とロボットが相互作用をしている場面の観察から交渉過程をモデル化し,そのモデルを人工物デザインの作成に活かす方法を探っています.最終的には,人間と調和した創造的協働を実現する知的情報処理システムを構築することを目標としています.代表,野間春生.

■応用的な研究課題

認知に関する基礎的研究にもとづいて,社会的に必要とされる研究や人びとの関心があると思われる研究をめざします.すなわち,各種の企業からの要望に応えられるように,あるいは市民の生活の場や教育に代表される対人関係の場などにおいて生じる諸問題に対応できるようにします.具体的には,1)市民,企業,官公庁,教育界などの求めに応じて,生活に関連したさまざまな対象・インフラ・事態に対して認知的評価を行い(QOL相談室の設置,QOL= Quality of Life),それをもって生活の向上に役立てます.また,2)メーカの製品設計者や開発者などと交流して,わたしたちの研究成果を製品に反映させ,あるいは世間のニーズの紹介を受けることによって製品の改善に役だてます.
このような視点から,現在取り組んでいる研究の事例はつぎのとおりです.

(産業界との連携)
  1. 伝統産業の京友禅の企業などと錯視デザインのコラボレーションを推進する.(詳細はこちら) 
  2. オノマトペのような他言語に翻訳するのが困難な体験に相当する感覚をつくりだす機器の製作をめざす.
  3. 身の回りにある製品の使い勝手を評価することによって商品の改善に資する.

(官公庁との連携)
  1. 自転車の走行環境整備に知覚心理学の知見を活用する.逆走の防止,一時停止の促進,車道走行の恐怖感の低減などにつながる自転車誘導インタフェースを提案する.

(市民からの要望に応えて)
  1. 生活音(人声,自動車音,TV,雑踏,トイレなどの排水音,音楽など)が与える騒がしさを定量的に測定することによって,生活者の目から現行の騒音基準を見直す.
  2. 町並みや公共施設などの快適性,利便性,安全性などに関する調査などを受託する.
  3. 海外からの観光客に対して,観光案内を行うロボットやエージェントを開発する。また,そのシステムを利用したユーザの行動を分析することを通じて,利用者やその文化に応じたナビゲーションのモデルを構築する。

(教育界からの要望に応えて)
  1. わかりやすい教科書・読みやすい教科書に向けて,その改善策を提案する。
  2. 学習者主体によるピアラーニングの活性化および協同学習支援。擬人化エージェントを用いた知的学習支援システムの開発と教育効果への実践的な検討を行う。